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歩行分析アプリ導入から定着の秘訣~杜の風・上原の場合

東京都渋谷区にある「社会福祉法人正吉福祉会 杜の風・上原」は、自立支援ケアの取り組みで過去には高齢者住宅経営者連絡協議会リビング・オブ・ザ・イヤーの大賞も受賞しておられます。
そんな杜の風・上原では3年前(2020年6月)に歩行分析アプリ CareWizトルトを導入されました。
前回のインタビューはこちら
導入当初につまづいた点、また3年経過した時点での課題点やその対処方法を理学療法士の田中さんにインタビューさせていただきました。

理学療法士の田中さん(左)と施設長の岩坂さん(右)

CareWizトルト導入期

― CareWizトルト導入のきっけは何でしたか?
そもそも導入のきっかけは、職員のケアのクオリティにばらつきがあり、指導していくのに限界を感じていたためでした。利用者さんの細かい注意点や動作の仕方を80~100名いる職員にマンツーマンで教えるのは物理的に限界がありました。月一の研修をしたり、その場にいるフロアの職員に直接レクチャーもしていましたが、ケアのクオリティの均一化は難しい課題でした。そんな折、前施設長よりから「トルト(当時の名称はケアコチ)が自分たちのやりたいことにハマるのではないか」と、紹介されたのがきっかけでした。

―トルトの導入期に問題となったことや難しかったことは何でしたか?
トルトとは何なのかイメージしずらく、説明するのに苦労しました。特に年配の職員はアプリとかスマホを使うのに抵抗がありました。初めはリハスタッフ主導でやろうとしましたが、説明しても若干距離があるような受け応えをする職員が結構いました。

導入成功は段階的な浸透施策による理解者の配置

― 説明の苦労やアプリに対する抵抗をどう乗り越えましたか?
各フロアに現場の介護職員を理解者として配置しました。その理解者にトルトについてしっかりレクチャーをし、その人から他の職員にトルトの使い方などを伝えてもらうようにしました。
理解者の選定については、施設内の自立支援委員会を利用して、その委員に選出された人に理解者になってもらっています。自立支援のケアを展開していく中で一緒にトルトを使ってもらいます。加えて各フロアのリーダーとサブリーダーにも協力してもらい、そのフロアへの普及を一緒に考えてもらいました。

理解者へのレクチャー時には、利用者の歩行や動作を一緒に撮って、動画の撮り方を伝えました。歩行分析の点数を一緒に確認し、訓練メニューを提案しました。コミュニケーションシート※のコメントとおすすめ運動も合わせて提案しています。1カ月に1~2回撮影し、経時変化も確認しました。そこで点数が上がるとフロアの職員も喜んで、成果を実感しました。理解度と協力する体制が深まった、まさに成功体験でした。
※歩行分析結果のレポートのことで、歩行点数や改善ポイントが分かりやすくコメントされて出力されます。

<活用成功のポイント>
杜の風さんの成功の秘訣は「段階的な浸透施策」で段階を追って理解者を増やしたこと!
具体的には、、、

推進リーダーが理解者※を以下の手順で増やしていく
※理解者=操作から活用までこなせる状態になっている人
[Step1] まず職種横断の委員会の参加者にトルトの理解者になってもらう
[Step2] 次に各フロアのリーダー、サブリーダーに理解者になってもらう

その理解者と共に、動画の撮影から分析~共有をやって、成功体験を積む時間をもつ

👉委員会という既にあるものを生かし、組織全体で取り組めたのが良かったんですね!

CareWizトルトの利活用

ーどのようにトルトを利用していますか?
月に一度トルトを利用した測定会を実施しています。撮影対象は特養の歩行可能な方全員です。利用者の8割ほどです。動画を撮るのはリハスタッフが3人、現場の介護職員が1~2人入るので、合計4~5人程です。かかる時間としては1時間弱です。

トルトを導入する前は、口頭や申し送り表に書いたり、介護ソフトに記録を残したりしたが、それだと周知徹底という面で文字だとイメージしづらい場合がありました。特にリハビリだと動作介助、ポジショニングというところで壁がありました。その点、動画だと分かりやすいです。

周知徹底の具体例としては、各動作ですね。トイレ介助の仕方など、一般的な介助の仕方は本やYouTubeを見ても分かったりはします。ただ利用者ごとに身体機能は違うので、トイレの動作一つとっても「この人はこっちの向きで、足の配置もこういう形で立ち上がってもらった方が安全だよ」っていう、そういう細かい点を伝えたい時があります。文字に起こすと結構情報量としては長くなります。長いうえにイメージしづらい。でも動画だと連続してダイレクトに見られるので理解が早い。歩行の介助でも、「ここの動きのところで、膝を押さえて」とか「足首の方を固定して」といった説明に関し、動画の方が早いし段違いに分かりやすいですね。

― 動画を撮るのは手間ではないですか?
よく使ってくれる職員は手間とは考えず、「書くより、動画撮っちゃいましょうよ」となります。むしろ楽をしたいから動画を撮るという感覚になっている。その方がこっちとしても「動画見ておいて!分からなかったら聞いて」で済むので、時間の短縮にもなっています。動画なので一時停止して「ここがポイントですよ」という形で説明するのにも本当に有用です。

導入して3年、見えてきた課題と取り組み

ー導入後3年が経った今、何か問題となっている点はありますか?
使い方については全職員に浸透しましたが、トルトを積極的に使う職員とそうでない職員とで差がある点です。他に得意な職員がいると「自分じゃなくていいや」と消極的になってしまいます。発信する人と受け手側になる職員で分かれてしまうのです。表面上は動画が上がっているので大きな問題はないのですが、その日のシフトによって職員にばらつきがあるので、消極的な職員が多い時は話が通りづらいことがあります。

利用者の調子は日によって変動します。利用者の調子が悪い時や、動作に介助が必要な時、「こういう介助をしましょう」と指導したり、見本をみせたりしています。そしてその動作を動画で撮ります。動画を撮った後にトルトにアップできるかできないかで職員によってタイムラグがある。そのタイムラグ分、そのフロアに浸透するのが遅くなります。全職員が同じ理解度、同じパフォーマンスという訳にはいかないので、今後も研修やレクチャーを続けていくことで常に意識改善を続けていきます。

7F多目的ホールの窓からは富士山と併設のこども園が見えました
倉庫も覗かせていただきました。杜の風では一日1,500mlの水分摂取に取り組んでいます。要望があったそうで甘酒もありました。

インタビューを終えて
杜の風・上原の隣にはこども園が併設されていて、施設の中からも子どもたちの様子が見えました。コロナ前は交流活動もあったそうです。子どもがいると入居者の様子が一変するそうです。利用者の顔が一瞬で笑顔になり、どんなリハビリより即効性があるとのこと。子どもの威力の大きさが分かります。そしてそれを語ってくれる田中さんの顔もすごい笑顔になって、子どもがいるってすごいなぁと印象的でした。交流再開が待ち遠しいそうです。子どもたちと手をつないで一緒に歩いて、トルトでその歩行を分析したらどんな結果になるか、想像すると楽しいです^^

今回のインタビューは「社会福祉法人正吉福祉会 杜の風・上原」様にお伺いしました。
東京都渋谷区上原2-2-17
https://www.shoukichi.org/morinokaze/